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第6回 アドビ システムズ株式会社 小島英揮氏・太田禎一氏インタビュー Adobe AIRで手軽にリッチなデスクトップ・アプリケーションを(その1)

「Apollo」というコードネームで知られ、2008年2月25日にアドビ システムズ株式会社からバージョン1.0正式版がリリースされたばかりの「Adobe® AIR®」は、さまざまなWeb標準の技術を使い、クロスプラットフォームでデスクトッププリケーションを作成・配布できるランタイムです。すでに幅広く利用されているFlashやAjaxなどの技術をそのまま流用して、高機能のウィジェットを実現可能な環境として大きな注目を集めているこのAdobe AIRについて、アドビ システムズ株式会社の小島英揮氏・太田禎一氏にうかがいました。

多くのユーザに歓迎されたAdobe AIRの特徴

--まず、Adobe AIRが目指したものとはどんなところなんでしょうか?

小島 : Adobe AIRは、われわれが「RIA(Rich Internet Application)」という名前をつけている通り、業務アプリケーションにも、お客様とのインタラクションにも、またユーザ同士のP2P的なインタラクションにも使える物です。今回ウィジェット系のお話と言うことで、まったく新しいカテゴリが登場したように見られている部分もあるかもしれませんが、元々これにいたる文脈があります。2004年に出始めた「Adobe Flex」の概念に基づいての2008年に誕生したものが、Adobe AIRということになります。
 これまでは一般的にアプリケーションがリッチになるとリーチが取れない、逆にリーチを取れるようにすると使い勝手が悪くなるという関係がありました。そうした中で、Adobe AIRは(Flashなどの)Webブラウザ上のRIAが持つようなリーチを確保しつつ、性能もアップする、という位置にあります。つまりWebのリーチは残しながらも、パワフルな表現力を得るための技術を目指したというところがまず1つあります。
 また同じようなエリアを目指している技術があるんじゃないかということで、よくわれわれもWPF (Windows Presentation Foundation)や、専用のランタイムを持つリッチクライアント系の技術と比較されたりするんですが、機能をだけを実現するのであれば、CやJAVAでもできるわけです。そうした中でAdobe AIRが優れているのは、(プログラミングの)敷居が低いという点です。Webアプリケーションを作る技術があれば、それをそのままAdobe AIRの世界に持ち込んで、自分の作れる物や表現できる物を拡張することができるわけです。社内向けのシステムでも、お客様向けのサービスでも、Webを通じてバックエンドにアクセスするものは非常にたくさん作られているわけですが、そうしたものをそのまま生かしながら、今持っている技術の延長線上で、よりリッチなアプリケーションを作ることができる、これがもう1つのポイントです。

--敷居の低さというのはAdobe AIRの普及の速度にも関係してくると思いますが。

小島 : 弊社の「Adobe AIRギャラリー」もそうですし、御社widgetownのAdobe AIRのページもそうですが、資金的な援助や技術者支援など特別なことをすることなく、βの時点ですでにたくさんの事例や投稿があります。これはAdobe AIRの技術に興味を持っていただいて、やろうと思って、本当にできてしまうというハードルの低さがあらわれているんじゃないかと。まさに高機能と高リーチを、Webブラウザの制限を外して、しかしWebの技術を使って実現できるということがAdobe AIRの最大の特徴だと思っています。

--どのようなアプリケーションの開発に可能性を開くのかということでは、業務用と言うよりはコンシューマー向けのものが多くなるんでしょうか?

小島 : その両方と言えます。Adobe AIRはあくまでも道具なので、社内に持っていくか、社外向けとするかはお客様のご判断次第となりますが、われわれが注力しているのは、むしろエンタープライズエリアです。したがって、ランタイムだけではなく、サーバサイドの技術も重要になってきます。
 例えば、Adobe AIRのアプリケーション、Flashでも良いんですが、ここでは仮にFlex Builderを使って作るとします。AjaxなどですとWebの仕組みをそのまま流用できるテキスト通信が確かに手軽です。しかし、業務系のシステムや、コンシューマー向けでもWebメールなどの大量のデータを展開するアプリケーション、要するにトランザクションがたくさんある世界ですと、データ転送を高速化したい、また開発そのものの効率も上げたいという話が必ず出てきます。そこで弊社はデータサービスという技術、製品でいうとLiveCycle Data Services ES、あるいはそのオープンソース版のBlaze DSというものを使うことで、より高速なRIAを実現できるようになります。

--どのくらい高速化されているんでしょうか?

小島 : こちらでは実際にベンチマークをご覧いただくことができます。まずWebブラウザがあってJavaScriptを実行していて、XMLで通信をする、いわゆるAjaxのアプリケーションの場合(1)。次にフロントはAdobe Flex、あるいはAdobe AIRでも良いんですが、ActionScriptでFlashのアプリケーションを実行して、XMLで通信をする場合(2)。3つ目にフロントをAdobe Flex/AIRで、バックエンドに「AMF」というわれわれが持っているバイナリ通信を利用する場合(3)。それぞれ同じ5,000行のデータをロードしてきて、展開するという同じアプリケーションを実行します。
 (1)と(2)を比べると、実行速度は(2)の方がかなり高速になっていると思います。それはJavaScriptをWebブラウザ上で実行するより、Flash PlayerもしくはAdobe AIR上でActionScriptを実行する方が速いからです。ただ、この話はよく言われる部分なんですが、実はデータのやりとり全体ではそれほど速くなってはいないんです。バックエンドにかかる時間が変わっていないので、しょっちゅうデータをやりとりしていると、それほど差が出ないんですね。データサービスはそこを短縮する技術です。(1)と(2)はXMLをgzip圧縮しているため変換に時間がかかっていますが、(3)はデータをバイナリで送ってそれをそのまま実行するので非常に速い。
 こうしたサーバ側の技術も含めて、エンタープライズでの利用、あるいはコンシューマーでもデータ量やインタラクションがたくさんあるような環境に耐え得るものをご用意しているわけです。

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--Adobe AIRというランタイムを設計される上で、いわゆるウィジェットというものは意識されたんでしょうか?

小島 : ウィジェットの定義にもよりますが、単機能のアプリケーションを手間をかけずに作ることができるという意味では、Adobe AIRはウィジェット向きだと言って良いと思います。ただし、拡張性も非常に優れています。例えばソニーさんがAdobe AIR(※Beta 2)でお作りになった「FLO:Q」もウィジェットと呼ばれていますが、これはウィジェットのベースになるアプリケーションも含まれていて、ひとつひとつの単機能のパーツを追加することによって、ものすごく多機能なものになっています。

太田 : Web技術者で弊社のAdobe Flash CS3やAdobe Dreamweaver CS3を使っていらっしゃる方は多いと思うんですが、これらで制作したアプリケーションは、そのままAdobe AIRのアプリケーションとして(「コマンド」メニューなどから)書き出せるようになっています。これだけ簡単にウィジェットを作れるプラットフォームは、やはり他にないと思います。しかも、ウィジェットを1つ作ったらMacでもWindowsどちらでも動いてしまう。3月31日にLinux版Adobe AIRのβリリースもアナウンスしていますが、そうなると今作っているウィジェットがLinuxでも動いてしまうわけです。これも他にはない特徴ですね。
 FLO:Qのようにいろんなウィジェットをアグリゲートするものも作りやすいですし、幅は広いです。これだけ簡単に作れますから。それこそ一発ネタとか、C++とかで作ったら空しくなるような単純な物を作ったとしても、そんなに損をしたと思わないでしょうし(一同・笑)。バックエンドにビデオの配信サーバなどが必要にはなりますが、「AOL Music - Top 100 Videos」みたいなメディアプレイヤーだって作れる。一般的にウィジェットと言うと、まあこのくらいまでかなという機能的な限界が見えるところがありますが、Adobe AIRだとほとんど無限と言っても良いかと思います。

小島 : 表現を広げやすいですよね。弊社のFlash、Dreamweaver、Flexなどを使っていただければ生産性も高いですし、もちろんAjaxも使える。サーバとのインタラクションを拡張すれば、エンタープライズにも利用できる。またクロスプラットフォームでOSの差異も吸収してくれるということで、ウィジェットクリエイターの方にも扱いやすくなっていると思います。

--日米を中心に、世界的な動きや反応はどのようになっていますか?

太田 : 単にβリリースの頃から本が何冊も出たり、いろんなところのニュースの見出しになるみたいなことだけ取っても、私の今までのサラリーマン人生の中ではなかったことですが(笑)。

小島 : 先ほど挙げましたAdobe AIRギャラリー以外にも、例えばアメリカのAdobe AIRのサイトでは、企業レベルのスケールでタイアップして作っているものが並んでいます。また「Showcase applications」のページでは企業系のアプリケーションが並んでいますが、アメリカでは個人のクリエイターが作られたものも当然たくさんありまして、そこはすでに押さえつつ、企業レベルで展開しています。
 日本でも企業への展開としてはシャープさんの事例(※ITpro ネットワーク・エンジニア倶楽部へリンクします。)にあるとおり、Flexベースでの事例は出てきはじめていますが、Flexデベロッパー以外の方へのアプローチ、たとえば、Ajaxのデベロッパー向けにこのように使っていただける、みたいなアプローチはアメリカの方が先行しています。これは英語版と日本語版のリリース時期の関係もあって、英語版の今回のローンチではフルバージョンがオンになって出ていますが、日本語版ではブラウザエンジンであるWebKitの部分がまだ不十分なんです。したがって、現時点で使える機能にフォーカスすると、日本語版のAdobe AIRはFlexユーザの方にアピールする方が良いだろうということで、どうしてもFlexが先に立ってしまうんですが、決してそうした分野に関心がないというわけではありません。将来的にはやっていきたいと考えています。

太田: アメリカは当然ですが、ヨーロッパでも言葉の壁はそれほどないので、ユーザグループが自主的に行っているイベント、 Flashonthebeach FITCFlashforward on AIR Tour (※Adobe主催)などがあります。

小島: アメリカではロックのバンドみたいなバスツアーと言いますか、「AIR」と描かれたバスにエバンジェリストを乗せて走らせて各地を回ってユーザグループのイベントや勉強会などを催したんですが、ヨーロッパではこれを鉄道でやります。また2月末のAdobe AIRローンチの際の記者会見の際には、弊社のエンリケ・デュボスというエバンジェリストが来ていましたけれども、彼はスペインがベースでして、ヨーロッパにもAdobe AIRについて語れる人間がちゃんといて、当然カバーしております。
 こんなアプリケーションが出ているというお話で言えば、例えば「Google Analytics AIR beta」はベルギーの開発者が作ったものでした。

太田: 私がデモでさんざんギャグとして使った、AppleのiPhoneをAdobe AIR上で再現したものも、イタリアの開発者が作ったものですね。

小島: サンプルが英語で上がっているので英語圏というイメージがあって気付きにくいんですが、ヨーロッパでも限りなくアメリカに近い盛り上がりになっていると思います。

--そうした大きな反響があるというのは、ユーザが何を待ち望んでいた結果だと考えていらっしゃいますか?

小島 : 今までのFlashなどはやはり限界があったというか、どうしてもWebブラウザの制約があったわけです。特に企業の方ですと、Adobe AIRになってFlashからパワーアップした部分というのがすごく素直にツボにハマる。右クリックでカスタマイズできない、Webブラウザの中に入っていたのでファンクションキーが使えない、常に最前面表示ができないといったエンタープライズの人が気にするようなことが、いちいちAdobe AIRには入っている。
 例えばローカルにSQLで接続できるデータベースがあって、そこにポンっと接続ができちゃう。直接Webのデータベースにクエリーをかけるのと同じ形で、ローカルで接続できるわけです。こんなに自由な、自然なことは他にないんじゃないかというところですかね。長々と説いて納得いただくような必要もなく、普通にFlashよりパワフルだとすんなり理解してもらえるわけです。最近IE8で出てきたHTMLの一部を切り取っちゃうみたいなことはずっと前からやっていますしね。Adobe AIRの内部ではHTMLだけでなくPDFもFlashと統合できるわけですから。

太田 : コンシューマーサイドで言えば、やはり純粋に表現力が上がった結果というところはあるかと思います。例えばウィジェット開発者の方にとっては、表示サイズであったり、インターフェースの形を自由にできるというのは大事なのかなと思います。そういう意味で、他のさまざまな技術を使ってなんとかWebブラウザの外に出ようという動きが先にあったわけで。Adobe AIRはそのためのハードルを低くするという部分で期待されているのかと思っています。

--(その2につづく)

文:坂本 寛(タブロイド)/widgetown編集部
2008年4月1日

小島 英揮

アドビ システムズ株式会社
マーケティング本部 エンタープライズ&デベロッパーマーケティング部 部長
アドビ システムズ株式会社で、Adobe LiveCycleをはじめとするエンタープライズ系製品のマーケティングを担当。アドビ システムズ株式会社のアクセリオ(旧称:ジェットフォーム)買収により、2002 年にアクセリオジャパンよりアドビ システムズ株式会社に入社。以来一貫してアドビシステムズでのエンタープライズ分野でのマーケティングを担当。現在、Flex、LiveCycle、AIR等によるEnterprise RIA市場の拡大を推進中。

太田 禎一

アドビ システムズ株式会社
DMOテクニカルエバンジェリスト 
旧マクロメディア社でDirector、FlashなどインタラクティブなクリエイティブツールおよびWebデザイン・開発ツールのプロダクトマネジメン ト・マーケティングを担当。2005年12月、アドビ システムズ株式会社入社。Flashプラットフォームを基盤にした製品群の営業支援を経て、現在はAdobe AIRのほか、Flash Media Server等Flash Video技術を利用した映像のネット配信に関するビジネス開発および啓発活動に携わる。

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